少女T 冒頭

2011年10月4日
その事故は突然起こった。
「おい、あれをなんとかできないのか!」村の男が大声で喚く。
巨大な竜巻が村に迫ってくるのだ。それはあまりにも巨大で、10キロメートル以上離れていようが、人々の目にははっきりと見えた。随分とゆっくりゆっくり迫ってくるものだと思われていたが、スピードが遅いわけではない。竜巻が巨大すぎるのだ。
「どうしよう…このままじゃ村の人々や建物…村のポケモンたちまで…みんな…」
ある一人の少年がそう言った。しかし、巨大な竜巻の前に、彼は無力であった。自分にはどうすることもできない、と彼は思っていた。
「おい、皆、何とかあの竜巻を吹き飛ばすんだ!」村長と思われる男が竜巻を指差して叫んだ。
そして、村の人々はモンスターボールと取り出し、それぞれ自分のポケモンを出した。スワンナの暴風、ウォーグルの吹き飛ばしなどで必死に抵抗した。
しかし、彼らもまた無力であった。どんな強力な攻撃でさえ、巨大な竜巻に跳ね返される。竜巻は、暴風や風を飲み込み、どんどん巨大化していった。
「くそっ…ダメだ…俺たちはなんて無力なんだ!」何人もの男たちが跪いた。
「なにをしておる!さっさとあの竜巻を…くっ…」村長の男が罵った。
「しかし、あの竜巻の前ではどうすることも…」一人の男が顔を上げて言った。
「ううむ…仕方ない、みんな、非難するぞ!」村長がそう言い、反対方向に走り出した。それに続き、他の村人たちも走り出した。少年も一緒に走り出した。

その時、少年はあるものを見た。それは、一人の少女だった。キャップをかぶっている。髪がとても長く、その長い髪をキャップの後ろで縛っていた。そして、その場に立ち竦み、竜巻をじっと見つめている。
「あ…」少年は思わず声を出した。
「おい、お嬢ちゃん!ここは危ないよ。早く逃げるんだ!」1人の村の男が言った。しかし、少女は動かなかった。そして、彼女は男の方を見て、こう言った。
「お困りのようね」彼女は微笑んでいた。
「え…おい!」男は少女を連れて行こうとした。
「さあ、お仕事の時間よ!」彼女はそう叫び、モンスターボールを取り出し、空中に投げた。
「おい、何をするんだ!」大勢の村人たちが、彼女を見ていた。
モンスターボールからあるポケモンが出てきた。それは大きな翼を広げた、真っ白な一体の竜のようだった。
「あ、あれは…」村人たちは唖然としていた。
「伝説のポケモン…」
「レシラム!」
逃げ惑っていた村人たちは足を止め、彼女を見ていた。
「さあ、あんたの力を見せてやりな!」彼女は竜巻を指差してレシラムに命じた。
(ピギャァァァァァァァァ!)
白いポケモンが吠えた。そして、口から巨大な炎の塊を吐いた。
「あれは…レシラムのみが持つと言われる技…」
「そう、クロスフレイムよ!」
巨大な炎は竜巻に衝突した。そして竜巻を一気に包み込み、仕舞には吹き消してしまった。
村人たちは言葉が出なかった。その時、彼女は立ち去ろうとした。
「お、おい君!待ってくれ!」一人の男が彼女を呼び止めた。
「何?」彼女が振り返った。
「な、名前は何て言うんだ!?」
その時、彼女はまた前を向き、笑みを浮かべた。
「あたしが誰であろうと、あなたたちには関係ないでしょ」そう言って彼女はまた走り出した。

それを、少年は見逃さなかった。走り去ろうとする彼女を、彼は懸命に追いかけた。彼女は運動神経がよく、足元の岩や凸凹も、器用によけてゆく。そのうえ足も速い。しかし、彼は負けまいと、彼女を追いかけた。そして、人気がないところまで走ったところで、ようやく声を出して呼ぶことができた。
「待って!」彼は息切れしながらも、精一杯声を出した。彼女は止まってくれた。彼女は、彼の顔を見て、ふと何か不思議なものを覚えた。どうやら彼女は、彼にすこし何かを感じるらしい。そして、彼の方を振り向いた。
「何?」彼女は彼に向って言った。
その時、彼は彼女の顔を見たとたん、見惚れてしまった。彼女はあまりに綺麗で、可愛らしかったからだ。
「何よ。言いたいことがあるなら言いなさいよ」彼女は腰に手を当てて言った。その身振りもまた可愛らしい。
「あの…名前教えてくれない?」彼は彼女がまた言ってしまわないか心配だったら、勇気を出して聞いてみた。その時、彼女はまた笑みを浮かべた。
「仕方ないわね」
彼女はキャップを直して言った。
「〝T”よ」
「え…」彼にはその意味が分からなかった。
「あたしの名前はまだ教えてあげない。だけど、あたしのことは〝T”っていう風に覚えておいてね」彼女は彼にウインクした。
「じゃあね」彼女はそう言って、彼に手を振りながら走って行った。
「あ、待って!」彼はもう一度呼び止めた。しかし、今度は止まってはくれなかった。
気が付いた頃には、彼女の姿はなかった。

(謎の少女〝T”…)
彼はそう考えた。

二人の物語は

この時始まった。

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